「マルセル・デュシャンと日本美術」

東京国立博物館の展覧会「マルセル・デュシャンと日本美術」に行ってきました。概要や見どころ、感想などを紹介します。

 

展覧会の概要


この展覧会は、第1部「デュシャン 人と作品」と第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」の2部構成になっています。

第1部「デュシャン 人と作品」は、デュシャンの世界的なコレクションを誇るフィラデルフィア美術館からの150点あまりの作品で、デュシャンの足跡をたどることができます。この展示はデュシャン没後50周年を記念してフィラデルフィア美術館が企画・監修したもので、原題を“The Essential Duchamp”といいます。東博の後に、韓国の韓国国立現代美術館とオーストラリアのニューサウスウェールズ州立美術館を巡回することが予定されています。

第2部では、東博が所有する資料を活用しながら、デュシャンの作品と日本の美術を比較して見ることができます。東博ならではで、東博らしさを出した展示です。当然ですが、この第2部は巡回しません。

マルセル・デュシャンの略歴

マルセル・デュシャンは、1887年にフランスのノルマンディ地方に生まれました。1904年頃にパリに出て絵画作品を制作していましたが、1912年ごろを最後に油絵は描かなくなったようです。

その後、既製品を活用した「レディ・メイド」という概念であらわされる12のオブジェ作品をつくりました。有名なのは「自転車の車輪」(1913年)や「泉」(1917年)です。1915年頃にアメリカ・ニューヨークに拠点を移動。ニューヨークに移った直後に、代表作の一つ「大ガラス」(通称)の制作をはじめたようですが、1923年に未完のまま放棄したようです。デュシャンは30代半ばで芸術作品を作らなくなり、チェスに没頭したといわれていますが、晩年のおよそ20年間かけて誰にも秘密で「遺作」(通称)という作品を制作していました。

レディ・メイドの作品群などで「現代美術の父」ともいわれるデュシャンが亡くなったのは1968年のことです。墓碑銘は「死ぬのはいつも他人ばかり」

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展示の見どころ-「自転車の車輪」「大ガラス」「泉」など

第1部「デュシャン 人と作品」

第1部「デュシャン 人と作品」は、デュシャンの足跡をたどる時系列の展示構成になっています。

導入部に設置されている「自転車の車輪」

第 1 章「画家としてのデュシャン」には、デュシャンの出世作といわれる「階段を降りる裸体 No. 2」(1912年)をはじめ、10代の頃からの作品が展示されています。

第 2 章 「『芸術』でないような作品をつくることができようか」は本展のハイライトといえるかもしれません。「自転車の車輪」は展示の導入部に展示されていますが、この章には「大ガラス(正式名称「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」)「泉」が展示されています。「大ガラス」はフィラデルフィア美術館からのものではなく、複製品で東京大学駒場博物館蔵となっていました。

第 3 章「ローズ・セラヴィ」。1920年代からのデュシャンを紹介しています。「ローズ・セラヴィ」とは、女装したデュシャンの別名。有名な写真家マン・レイとの交流も深かったようです。

第4章「《遺作》 欲望の女」では、晩年の約20年間に制作していた「与えられたとせよ 1. 落ちる水 2. 照明用ガス」(通称:「遺作」)を映像や構想を記したアイディア・ノート、メモなどで知ることができます。

第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」

公式サイトから趣旨・ねらいを引用します。

もともと西洋とは異なった社会環境のなかで作られた日本の美術の意味や、価値観を浮かび上がらせることによって、日本の美の楽しみ方を新たに提案しようとするものです。デュシャンの作品とともに日本美術を比べて見ていただく世界ではじめての試みです。
この展覧会では「芸術」をみるのではなく「考える」ことで、さまざまな知的興奮を呼び起こしてください。

構成は、第 1 章「400年前のレディメイド」第 2 章「日本のリアリズム」第 3 章「日本の時間の進み方」第 4 章「オリジナルとコピー」第 5 章「書という『芸術』」となっていて、東博が所蔵する国宝や重文などを含む資料を展示しています。浮世絵なども展示されていましたが、作品保護のため展示の入れ替えも行われています。

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ひとこと

展覧会の写真撮影がOKでした。やはりSNSなどのPR効果も考えてのことでしょうか。

会期の終わりに近かったのですが、かなりゆっくりと見ることができました。平日の午後ということを考えてもちょっと意外です。

第1部は時系列でデュシャンの作品などを展示しているので、「泉」以外の作品も興味深く拝見できましたし、デュシャンを少しだけかもしれませんが知ることができて良かったです。

それにしても、なぜ東博でデュシャンなんでしょう。第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」は東博でやる意義を出すための付け足し感を感じてしまったのですが…。

info

東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展
「マルセル・デュシャンと日本美術」

・会 期:2018年10月2日(火)~12月9日(日)
・会 場:東京国立博物館 平成館 特別展示室 第1室・第2室
・開館時間:9時30分~17時、金・土、10/31、11/1は21時まで
・休館日:月曜日(10/8は開館)、10/9
・観覧料:1200円(大人・個人・当日)
・主 催:東京国立博物館、フィラデルフィア美術館
・公式サイト:http://www.duchamp2018.jp/
・備 考:韓国国立現代美術館(韓国)及びニューサウスウェールズ州立美術館(オーストラリア)を日本のあとに巡回
・訪問日:2018年12月